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前橋地方裁判所 昭和39年(ヨ)61号 判決

債権者

佐々木硝子株式会社

右訴訟代理人弁護士

坂本吉勝

菊池武

債務者

長谷川硝子工業株式会社

右訴訟代理人弁護士

安原正之

(他三名)

主文

一、債権者が債務者のため金六〇〇万円の保証を立てることを条件として、次のように定める。

(一)  債務者は別紙債権者提出図面(一)ないし(三)表示のとおり形状および模様の「サラダボール」、「みつ豆鉢」、「フルーツ皿」を製造し、譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のために展示してはならない。

(二)  債務者の右各物品ならびにこれらを製造するために必要なダイス(型)に対する各占有を解いて、債権者の委任する前橋地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。この場合においては、執行吏は右各物品がその保管にかかることを公示するため適当な方法をとらなければならず、かつダイス(型)については、執行吏自らこれを現実に保管するか又は債権者若しくは債務者以外の第三者にその保管を託するかの措置を講じなければならない。

二、債権者のその余の申請は、これを却下する。

三、訴訟費用はこれを一〇分し、その一を債権者、その余を債務者の各負担とする。

事実

第一、申立

債権者訴訟代理人は、「債務者は、別紙債権者提出図面(一)ないし(四)記載のとおりの形状および模様の「サラダボール」、「みつ豆鉢」、「フルーツ皿」、「ジヨツキ」を製造し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡のために展示してはならない。債務者の右各物品ならびにこれらの製造のために必要なダイス(型)に対する各占有を解いて、債権者の委任する前橋地方裁判所執行吏にその保管を命ずる。この場合においては、執行吏は右各物品がその保管にかかることを公示するため適当な方法をとる外、ダイス(型)については執行吏自らこれを保管するか債権者若しくは債務者以外の第三者にその保管を託するかの措置を講じなければならない。」との判決を求めた。

債務者訴訟代理人は、「本件申請を却下する。訴訟費用は債権者の負担とする。」との判決を求めた。

第二、主張

(申請の理由)

債権者訴訟代理人は、申請の理由として次のとおり述べた。

一、債権者は、次に記述する四つの登録意匠の権利者である。

(1) 昭和三七年五月二二日出願

同   年一〇月二日登録

登録番号第二一八六四二号

意匠に係る物品    鉢

(以下これを第一登録意匠と略称する)

(2) 昭和三七年八月二五日出願

昭和三八年六月二八日登録

登録番号第二二七〇七一号

意匠に係る物品    鉢

(以下これを第二登録意匠と略称する)

(3) 昭和三七年五月二二日出願

同   年一〇月二日登録

登録番号 二一八六四三号

意匠に係る物品    皿

(以下これを第三登録意匠と略称する)

(4) 昭和三七年一二月二七日出願

昭和三八年八月一日登録

登録番号第二二八三六三条

意匠に係る物品  手付コツプ

(以下これを第四登録意匠と略称する)

二、右各意匠権の構成要素は、それぞれ次のとおりである。

(1)  登録番号第二一八六四二号意匠(第一登録意匠)権の構成要素は、意匠公報(疏甲第一号証の一)によつて明らかなとおり、

(イ) 意匠に係る物品は鉢である

(ロ) 形状は円形で、口縁部直径との鉢の深さの比は約三対一、底部直径は縁口部直径の約二分の一、即ちやや、底のつぼまつた浅い鉢の形状である

(ハ) 色彩は着色されていない

(ニ) 模様は、外表面は縦長の菱形稜線から成る突条模様が口縁部から中心点に向つて三段に施され、各殺はそれぞれ横に連接する二〇個の菱形から成る。各段の菱形はいずれも四個の辺と四個の角を有する普通の菱形である。鉢の底の中心部には第三段の二〇個の菱形の下端が中心点に集中している

ことの四点である。

(2)  登録番号第二二七〇七一号意匠(第二登録意匠)権の構成要素は、意匠公報(疏甲第一号証の二)によつて明らかなとおり、

(イ) 意匠に係る物品は鉢である。

(ロ) 形状は円形で、口縁部直径は鉢の深さの約一、七倍、口縁部から底までの約三分の二の点までは緩い角度、それ以下の部分はやゝ急な角度を以てつぼまつている、やや深い鉢の形状である。

(ハ) 色彩は着色されていない。

(ニ) 模様は、外表面に縦長の菱形稜線から成る突状模様が口縁部から中心点に向つて三点に施され、各段はそれぞれ横に連接する一八個の菱形から成る。各段の菱形はいずれも四個の辺と四個の角を有する普通の菱形である。鉢の底の中心部には第三段の一八個の菱形の下端が中心点に集中している。

ことの四点である。

(3)  登録番号第二一八六四三条意匠(第三登録意匠)権の構成要素は、意匠公報(疏甲第一号証の三)によつて明らかなとおり、

(イ) 意匠に係る物品は皿である。

(ロ) 形状は、口縁部が丸く底の浅い普通ありふれた皿の形状である。

(ハ) 色彩は着色されていない。

(ニ) 模様は、外表面に縦長の菱形稜線から成る突条模様が口縁部から中心点に向つて三段に施され、各段はそれぞれ横に連接する二四個の菱形から成る。各段の菱形はいずれも四個の辺と四個の角を有する普通の菱形である。皿の底の中心部には第三段の二四個の菱形の下端が中心点に集中している

ことの四点である。

(4)  登録番号第二二八三六三号意匠(第四登録意匠)権の構成要素は、意匠公報(疏甲第一号証の四)によつて明らかなとおり、

(イ) 意匠に係る物品は手付コツプである。

(ロ) 形状は、口縁部が丸く底の深い普通ありふれた手付コツプの形状である。

(ハ) 色彩は着色されていない。

(ニ) 模様は、外表面に縦長の菱形稜線から成る突条模様が口縁部からやや下つたところから底部に向つて二段に施され、各段はそれぞれ横に連接する一二個の菱形から成る。各段の菱形はいずれも四個の辺と四個の角を有する普通の菱形である。底部には模様は存しない。

ことの四点である。

三、債務者は、昭和三九年三月頃から現在に至るまで群馬県渋川市阿久津町一五番地の工場において、別紙債権者提出図面(一)表示の「サラダボール」、同図面(二)表示の「みつ豆鉢」、同図面(三)表示の「フルーツ皿」、同図面(四)表示の「ジョツキー」を相当量製造し、譲渡し、貸し渡し、かつ譲渡若しくは貸渡のために展示している。

しかして、右各物品の意匠の構成要素についてみるに、

(1)  右図面(一)記載の物品(以下これを第一物品ともいう)の意匠の構成要素は、

(イ) 物品は透明のガラス製の鉢である。

(ロ) 形状は円形で、口縁部直径と鉢の深さの比は約三対一、底部直径は口縁部直径の約二分の一、即ちやや底のつぼまつた浅い鉢の形状である。

(ハ) 色彩は着色されていない。

(ニ) 模様は、円形で模様のない中心部を囲み、周辺に菱形を内側に矢羽根模様を二段に組み合わせた模様単位の繰り返し模様を放射状に配列したもので、上縁部に縁取がある。

ことの四点である。

(2)  右図面(二)記載の物品(以下これを第二物品ともいう)の意匠の構成要素は、

(イ) 物品は透明のガラス製の鉢である。

(ロ) 形状は円形で、口縁部直径は深さの約一・七倍、口縁部から底までの約三分の二の点までは緩い角度、それ以下の部分はやや急な角度を以てつぼまつているやや深い鉢の形状である。

(ハ) 色彩は着色されていない。

(ニ) 模様は、円形で模様のない中心部を囲み、周縁に菱形を内側に矢羽根模様を二段に組み合わせた模様単位の繰り返し模様を放射状に配列したもので、上縁部に縁取がある

ことの四点である。

(3)  右図面(三)記載の物品(以下これを第三物品ともいう)の意匠の構成要素は、

(イ) 物品は透明のガラス製の皿である。

(ロ) 形状は、口縁部が丸く底の浅い普通ありふれた皿の形状である。

(ハ) 色彩は着色されていない。

(ニ) 模様は、円形で模様のない中心部を囲み、周縁に菱形を内側に矢羽根模様を二段に組み合わせた模様単位の繰り返し模様を放射状に配列したもので、上縁部に縁取がある

ことの四点である。

(4)  右図面(四)の記載の物品(以下これを第四物品ともいう)の意匠の構成要素は、

(イ) 物品は透明のガラス製手付コツプである。

(ロ) 形状は、口縁部が丸く底の深い普通ありふれた手付コツプの形状である。

(ハ) 色彩は着色されていない。

(ニ) 模様は、外表面にコツプ全体の約一〇分の九を占める部分の上部周側に縦長の菱形稜線から成る突状の菱形模様がある。その模様の下部に囲まれ下底に向い矢羽根模様が表わされている。そしてコツプ本体の上の約一〇分の一の個所に等巾の無模様の呑口部を表わし、その下部に三角状の突状模様が表わされている。底部には模様が存しない。

ことの四点である。

四、そこで、債権者の登録にかかる前記四つの各意匠の構成要素と、これに対応する前記図面(一)ないし(四)記載の各物品の意匠の構成要素とを対比検討すると、右各物品は形状および模様のいずれからみても、債権者の前記四つの意匠権にそれぞれ牴触することは明らかである。すなわち、第一登録意匠と第一物品の意匠とを、第二登録意匠と第二物品の意匠とを、第三登録意匠と第三物品の意匠とを、第四登録意匠と第四物品の意匠とをそれぞれ対比検討するならば、両者は、(イ)物品、(ロ)形状、(ハ)色彩については、全く同じであり、また(二)模様についても殆ど差異はない(もつとも模様については、それぞれ若干の相違点が認められるけれども、右相違点はいずれも意匠の要部に係るものではないから、右相違点の存することを以て右各意匠が類似しないものと解することはできない)のであるから、右各物品はそれぞれこれに対応する本件登録意匠権の権利範囲に属するものというべきである。従つて、債務者の右物品の製造、譲渡等が債権者の本件意匠権の侵害となることは明白である。

五、そこで、債権者は債務者を相手取つて、前橋地方裁判所に意匠権侵害差止請求ならびに侵害賠償訴訟請求を提起すべく準備中であるが、今日にして右侵害行為を差し止めないときは、本案において勝訴判決を得ても多大の損害を蒙るとともに権利の実行に著しい困難を生ずるので、これを避けるため本件仮処分申請におよぶ次第である。<以下省略>

理由

一、債権者が第一ないし第四登録意匠の権利者であること、ならびに本件各意匠権がそれぞれ意匠公報(疏甲第一号証の一ないし四)の意匠に係る物品、同説明の項の記載および同図面表示のとおりであること、右各意匠権の構成要素のうち、(イ)意匠に係る物品、(ロ)形状、(ハ)模様についてはいずれも債権者の主張するとおりであることは、当事者間に争がない。

債権者は、本件各意匠権はいずれも着色の限定はなく、しかも透明体と不透明点とを問わずその適用のあるものであると主張し、債権者はこれを争うので、まずこの点について判断するに、(疎明―省略)ならびに弁論の全趣旨によれば、本件各登録意匠の意匠公報にも意匠登録願書(添付図面を含む)にも該意匠の色彩ならびに透明、不透明に関する何らの記載もされていないことが一応認められる。ところで、登録意匠の範囲は願書(添付の図面、写真、ひな形、見本を含む、以下同じ)の記載によりあらわされた意匠に基いて定められるものである(意匠法第二四条)から、本件の場合のように願書に何ら色彩に関する記載がない以上、該意匠は色彩の要素を欠くものの換言すれば着色の限定のないものと解すべきである。又意匠は物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合により視覚的美感を有するものであつて、物品が透明であるか否かはその審美的価値に対し特に重要な影響を及ぼさないのが通例であると考えられるから、該物品の全部又は一部が透明であることによりその審美的価値が高められる等の事情があつて、出願者において該物品の全部又は一部が透明である旨を特に限定して意匠登録を受けようとする場合は格別、そうでない限り願書にはそれぞれ透明である旨の記載を要しないものと解すべく、従つて本件の場合のように願書に透明、不透明に関する何らの記載もないときは、該意匠に係る物品は透明体であると不透明体であると何らの限定を受けないものと解するのが相当である。債務者は、意匠法第六条第八項、改正前の同法施行規則様式第1備考第19項等を援用として、本件の場合のように願書に透明である旨の記載のないときは、登録意匠に係る物品は不透明体に限られる旨主張するけれども、右規定は出願者において意匠に係る物品の全部又は一部が透明体である旨を特に限定して登録を受けようとする場合の規定であると解されるから、債務者の右主張はこれを採ることができない。してみれば、本件各意匠権は債権者主張のとおりいずれも着色の限定はなく、しかも透明の物品であると不透明体の物品であるとを問わず、その適用があるものと認むべきである。

二、次に債務者が昭和三九年三月頃から現在に至るまで群馬県渋川市阿久津町一五番地の工場において、債権者主張の「サラダボール」、「みつ豆鉢」、「フルーツ皿」および「ジヨツキ」を製造、譲渡、展示していること、ならびに右各物品(本件対象物品)の意匠構成要素がいずれも債権者主張のとおりであることは、いずれも当事者間に争がない。

債務者は、本件対象物品に関する債権者提出の各図面は実物と若干異なるところがあると主張するけれども、右各図面と債務者が実物を正確に図示したと主張する債務者提出の各図面とをそれぞれ対比すれば、両者の形状、模様等には殆ど差異はない(もつとも各物品の平面図と断面図は、債権者提出の各図面のそれがいずれも意匠法施行規則第二条、様式第五に依拠した製図方法をとつたのに対し、債務者提出図面のそれはこれと異なつた製図方法をとつたため、その模様の表わし方に差異がある)ことが認められるのみならず、債権者提出の各図面と本件対象物品(検乙一の一、同二ないし四)とを対照してみれば、右各図面は本件対象物品を殆ど完全に近いといえる程正確に図示し得ているものと認められる。債務者は、債権者提出の各図面は特に鉢、皿の糸底部の形状、中心無模様部の大きさの割合等について若干不正確な点がある旨主張するが、鉢、皿の糸底部および中心無模様部は後段説示のとおり意匠の要部ではないものと解せられるから、かような部分の図示に微細な誤があつたとしても、該図面によつて物品の特定がなし得ないものではない。よつて本判決においては、債権者提出図面が本件対象物品を図示したものと認めて、判示することとする。

三、そこで、第一ないし第四登録意匠とこれに対応する債務者の第一ないし第四物品の右意匠とがそれぞれ類似するか否か、換言すれば後者が前者の権利範囲に属するか否かについて検討する。およそ意匠法においては物品の外観の審美的価値が保護の対象となるものであり、そして意匠は全体として看者の視覚に訴えるものであるから、意匠が類似するか否かの判断は、当該物品の外観を全体的に観察して看者の審美観に差異を生ずるか否かによりこれを決定しなければならない。従つて登録意匠と対象物品の意匠との間にある程度の差異があつても、それが意匠の要部すなわち看者の注意を強く引く部分に存せずその差異が看者に強い印象を与える支配的要素となつていない場合には、両者は類似すると解すべきであり、これに反し、その差異が意匠の要部に存し、両者の間に全体として顕著な差異があるとの印象を与えるに足るものである場合には、両者は類似しないと解するのが相当である。よつて以上の見地に立つて両意匠を対比検討することとする。

(1)  第一登録意匠と債務者の第一物品との類否の判断

(疏明―省略)を総合して判断すれば、右両意匠の構成要素のうち、(イ)意匠に係る物品、(ロ)形状、(ハ)色彩(着色されていない)はいずれも同じであり、又模様についても、両者とも外表面に縦長の菱形模様からなる突条模様が施されている点は共通であり、只(a)第一登録意匠にあつては、突条模様が縦に三段あつて鉢の中心部まで模様が施されているのに対し、第一物品にあつては縦に二段あるのみで第三段はなく、鉢の中心部は無模様であり、(b)前者の模様はすべて普通の菱形であるのに対し、後の第二段の突状模様の下端は二本の稜線が相接せず、その間に矢筈形の切込線を挾んでおり、(c)前者の突条模様の各段はそれぞれ横に連接する二〇個の菱形からなるのに対し、後者のそれはそれぞれ横に連接する三二個の菱形からなり、(d)右の結果、鉢と突条模様の大きさからなる等の差異がある外は、その模様の位置、菱形稜線の高さ等においても、殆ど異なるところがないことが一応認められ、他には右認定を覆えすに足る疏明はない。

そこで右の差異が意匠の要部に存し、その差異が看者に強い印象を与える支配的な要素になつているか否かについて案ずるに、前掲(疏明―省略)によれば、本件意匠に係る物品は通常食器として使用される形状のものであつて、その通常の用法においては、食物を盛つて卓上に置くものであり、この場合底の部分は看者の目に全く融れず、鉢の内側面および外側面の各一部が見えるにすぎないこと。又右物品の場合にも裏面を人目につくように上にして店頭に陳列するような慣習はなく、通常の使用状態と同様に台上に陳列するのが普通であることが一応認められ、右事実と、右物品の通常の使用状態・取引状態において看者の目に触れる部分のうち、内側面は無模様であり(もつとも物品が透明体である場合には外側面の模様が内側に映じることは否定し得ない)、これに反し外側面には前記のように縦長の菱形稜線からなる突条模様が顕著にあらわれている事実とを合わせ考えるならば、本件両意匠の要部は、右物品を通常の使用状態取引状態に置いた場合に看者の目に触れる範囲内の外側面すなわち外側面の第二段の模様の上半部以上の部分であると解するのが相当である。ところで、前記模様の相違点のうち、(a)、(b)の二点は意匠の要部に存する差異とは到底いい得ず、又、(c)、(d)の二点は物品の通常の使用状態において対比観察した場合に直ちに感得される程度の差異ではなく、特に注意して突条模様の菱形の数を数えてみてはじめて判明する程度のものであるから、その差異は着者に強い印象を与える支配的な要素となつているものと認めることはできない。換言すれば、前記両意匠の外観を全体的に観察した場合看者の審美感に差異を生ずるものということはできないから、結局両意匠は類似するものと解せざるを得ない。

なお証人(省略)の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる疏乙第一号証(同人作成の鑑定書)によれば、同人は前記両意匠につき比較検討の結果、両者は類似しない旨の結論を出していることが一応認められるが、その鑑定の理由について更に検討を加えてみるに、右各証拠によれば、同人はまず本件登録意匠はいずれも不透明体の物品にのみ適用されるものと解した上、本件第一登録意匠の要部は、外面に施された菱形の突条模様部分にあるのに対し、債務者の第一物品のそれは内面(すなわち物品が透明体である関係上、ガラス器の内面を透して見える裏の模様が最も看者の注意を引く)であつて、その位置を全く異にすることを前提として判断をしていることが認められるところ、右前提たる所論は当裁判所の採らないところであること前記説示のとおりであるのみならず、その余の鑑定理由中にも当裁判所の見解と相反する点があるから、右鑑定の結果に従うことはできない。

(2)  第二登録意匠と債務者の第二物品との類否の判断

(疏明―省略)を総合して判断すれば、右両意匠の構成要素のうち、(イ)意匠に係る物品、(ロ)形状、(ハ)色彩(着色されていない)はいずれも同じであり、又模様についても、両者とも外表面に縦長の菱形模様からなる突条模様が施されている点は共通であり、両者の間には、前記(1)の項において説示した、(a)、(b)と同様の差異がある外、(c)第二登録意匠の突条模様の各段はそれぞれ横に連接する一八個の菱形からなるのに対し、第二物品のそれはそれぞれ横に連接する二四個の菱形からなり、(d)右の結果鉢と突条模様の大きさの比率が稍異なる等の差異のあることを除いては、両者の模様には殆ど差異のないことが一応認められ、他には右認定を覆えすに足る疏明はない。

しかして前掲(疏明―省略)を総合して考えれば、右両意匠の要部は前記(1)の項に説示したところと同一の理由により、ともに外側面の第一段の模様および第二段の模様の下端部を除いた部分であると解されるところ、前記模様の相違点のうち、(a)、(b)の二点は意匠の要部に存する差異とはいい得ず、又(c)、(d)の二点は物品を通常の使用状態において対比観察した場合に直ちに感得される程度の差異ではなく、特に注意して突条模様の菱形の数を数えてみてはじめて判明する程度のものであるから、右両意匠の外観を全体として観察して看者の審美感に差異があるものということはできず、結局両意匠は類似するものと解せざるを得ない(なお証人(省略)の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる疏乙第二条証によれば、同人は右両意匠は類似しないとの鑑定をしていることが一応認められるが、右鑑定は前記(1)の項において説示したのと同様の理由によりこれを採ることができない)。

(3)  第三登録意匠と債務者の第三物品との類否の判断

(疏明―省略)を総合して判断すれば、右両意匠の構成要素のうち、(イ)意匠に係る物品、(ロ)形状、(ハ)色彩(着色されていないは)いずれも同じであり、又模様についても、両者とも外表面に縦長の変形模様からなる突状模様が施されている点は共通であり、両者の間には、前記(1)の項において説示した(a)、(b)と同様の差異があることを除いては、両者の模様には殆ど差異のないことが一応認められ、他には右認定を覆えすに足る疎明はない。

しかして前掲(疎明―省略)を総合して考えれば、右両意匠の要部は前記(1)の項に説示したところと同一の理由により、ともに外側面の第一段の模様および第二段の模様の下端部を除いた部分であると解されるところ、右(a)、(b)の二点は意匠の要部に存する差異といえないことは明らかであり、しかも突条模様の横列の数、位置、皿と突条模様の大きさの比率、突条の深さ等において両者は酷似し、殆ど相違するところはないのであるから、結局両者は類似するものといわざるを得ない(なお証人(省略)の証言およびこれにより真正に成立したものと認められる疏乙第三号証によれば、同人は右両意匠は類似しないとの鑑定をしていることが一応認められるが、右鑑定は前記(1)の項において説示したのと同様の理由によりこれを採ることができない)。

(4)  第四登録意匠と債務者の第四物品との類否の判断

(疎明―省略)を総合して判断すれば右両意匠は、(イ)意匠に係る物品、(ロ)形状、(ハ)色彩(着色されていない)はいずれも同じである(但しその形状には若干の差異がある)けれども、その模様について次のような顕著な差異がある、すなわち、両者とも外表面に連続した模様を施してある点は一致しているが、第四登録意匠のそれは、外表面の本体の約三分の二を占める部分に単に縦長の菱形稜線からなる突条模様が施され、そして右菱形稜線突条模様は互に各稜を共通にして上下二段に縦横連続してあらわされているのに対し、第四物品のそれは、外表面のコツプ本体の約一〇分の九を占める部分の上部の周側に縦長の菱形稜線からなる突条菱形模様が施され、右模様の下部に菱形線に囲まれ下方に向つて矢羽根模様があらわされ、コツプ本体の上部約一〇分の一の個所に等巾の無模様の呑口部があり、その下部に三解状の突条模様があらわされていることが一応認められ、(中略)他には右認定に反する疏明はない。

右認定の事実ならびに前記意匠に係る物品の形状を合わせ考えれば、右両意匠の要部はいずれもコツプ本体の外表面にあるところ、第四登録意匠の模様の構成の主要点は、菱形稜線突条模様の縦横連続模様にあるにすぎないのに対し、第四物品におけるそれは、縦長の菱形稜線からなる突条模様と更にこれに結合して縦長の矢羽根の突条模様があらわされていることにあるのであつて、その差異は看者に強い印象を与える支配的な要素となつているものと認むべく、換言すれば、右両意匠の外観を全体的に観察した場合看者の審美感に差異が生ずるものということができるから、右両意匠は類似しないものと解すべきである。

四、以上の次第で、債務者の第一ないし第三物品はそれぞれ本件第一ないし第三登録意匠権の権利範囲に属するものと認められるから、債務者の右各物品の製造、譲渡等は右各意匠権の侵害となり従つて債務者は債務者に対し右各意匠権に基き該侵害行為の差止請求権を有するものというべきである。

そして(疎明―省略)によれば、債権者はその主張のとおり昭和三八年一、二月頃から右各登録意匠にかかる製品を「ダイヤライン」と銘打つてその販売を開始し、テレビ、雑誌等でこれを宣伝して数千万円にのぼる多額の宣伝費用を投じ、その結果右製品の販売高はかなり伸びつつあつたところ、債務者が本件対象物品の売出を開始してから、その販売高の伸びが減少してきたことが一応認められ、他には右認定を動かすに足る疏明はない。してみれば、債務者の右侵害行為により、債権者は該販売高の増加によつて得られる各種の販売上の利益を喪失し、著しい損害を現に蒙りつつあるものと認むべく、従つて債権者については、前記権利を保全し右の著しい損害を避けるため緊急やむを得ざる措置として、本件仮処分の必要性を肯認すべきである。

債務者は、本件仮処分の執行により債務者が甚大な損害を蒙ることおよび債務者において目下本件各登録意匠につき無効審判を請求中であることを挙げて、本件仮処分の必要性の存在を争うけれども、かような事由が存するからといつて直ちに本件仮処分の必要性を否定することのできないことは、いうまでもない。

五、以上説示のとおりであるから、本件第一ないし第三登録意匠権の保全のため、債権者において債務者のため金六〇〇万円の保証を立てることを条件として、主文第一項掲記の仮処分を命ずることとし、第四登録意匠権に基く申請はその被保全権利につき疏明がないことに帰するから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。(裁判官松岡登)

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